一二三歌

メゾ・ソプラノとピアノのための (2016)

メゾソプラノとピアノのための「一二三歌」は、8世紀には既に日本に存在していたと言われるひふみ祝詞に思いを馳せて制作した歌曲である。本作品はまた、1960年台から日本文化を研究し日ユ同祖論を唱えるに至ったヨセフ・アイデルバーグ氏へのオマージュでもある。氏の解釈によるとひふみ祝詞はヘブライ語で解釈可能であり、以下のような意味があるという。『だれがこの麗しい人を、岩戸の中から、誘い出すのでしょうか。また岩戸の中から誘いだすためには、どのような言葉をかけたら、よいのでしょうか。』岩戸隠れの伝説は、スサノオの暴挙によってアマテラスが岩戸に籠もった物語ではなく、古代ユダヤ教の太陽神信仰の儀式が示されているという。47音から成る祝詞とヘブライ語の発話の類似性から、テキスト間における意味論の揺らぎを試みた。

本作ではまた、天岩戸に引き篭った天照大神と他の神々のエピソードを辿る群像劇を試みた。太玉命(フトダマ)は雄鹿の肩の骨と波波迦の木で太占(フトマニ)を行い、天児屋命(アマノコヤネ)は賢木の枝に八尺瓊勾玉と八咫鏡と布帛をかけ祝詞(ノリト)を詠む。天宇受賣命(アマノウズメ)は岩戸の前に桶を伏せて踏み鳴らし、神憑りして胸をさらけ出し裳の紐を陰部までおし下げて踊り、高天原が鳴り轟くように一斉に八百万の神が笑う。訝しんだ天照大神が岩戸の奥から近づく様子を、八百万の神は固唾を飲んで見守る。シーンは以下から成る。

Déclin du soleil 日の陰り
Divination de Futodama フトダマの太占
Prière de Koyane コヤネの祝詞
Danse d’Uzume ウズメの舞
le miroir de Yata et le pressentiment  八咫鏡と予感
Banquet de là-bas 彼方の宴
Coup d’œil de l’ombre 陰間の垣間見
Echo des mots de l’âme 言霊の木霊
Signes de lumière 光の兆し

初演 : 小林真理メゾ・ソプラノリサイタル

日時:2017年1月6日(金)開場18:30 開演19:00
会場:音楽の友ホール(神楽坂駅徒歩2分)

プログラム:
第一部 現代音楽への道
グスタフ・マーラー:子供の不思議な魔法の角笛 より
アルバン・ベルク:4つの歌曲
第二部 柴田南雄の歌曲
柴田南雄:優しき歌
第三部 現代から未来へ
ジョン・ケージ : 18回の春を迎えた陽気な未亡人
チャールズ・アイヴズ : 歌曲
オリヴィエ・メシアン : ハラウイ より
イザベル・アプリケール : キュリー夫人の日記
フィリップ・ルルー : いとしい人へ
松宮圭太:一二三歌

演奏:
小林真理(メゾ・ソプラノ)、棚田文紀(ピアノ)

主催:柴田南雄生誕百周年記念リサイタル実行委員会
後援:新宿区、日仏現代音楽協会、日本女性作曲家連盟
助成:野村財団