沈黙・刹那・回帰

安田結衣子さんに委嘱を受け、京都で初演されたピアノ作品の音源と解説をアップロードしました。

ピアノのための『沈黙・刹那・回帰』は、永劫回帰に想いを巡らせて制作したリチェルカーレである。はたして「賽は投げられた」のか、「神は賽を振らない」のか。

仏教の世界観で親に先立つ子が行くとされる賽の河原。そこでは、逝った子供がケアンの塔を築けた際に成仏が叶うという。だが、鬼がやってきては塔を破壊し、何度塔を築こうとしてもそれを繰り返すことになるという。ギリシャ神話にも、ゼウスを欺いた罰としてシーシュポスがタルタロス山で岩を押し上げ続けるというエピソードがある。山頂まであと少しというところで岩が転がり落ち、その苦行が永劫に繰り返されるという。

一方、熱力学的視点では、エントロピーの法則によって世界は常に拡散し多様化していくので、類似の状況が再現されることがあってもまったく同じであることはないという。またカオス理論では、単純な規則性で表現されることが結果として予測が非常に難しくなることがあるといい、量子論では、不確定原理によってミクロな領域の粒子の位置と運動量は正確には決められないという。