初演情報
光・映像・音響の戯れと創作 2025
(ミッドジャパン音の芸術祭 2025)
日時|2025年8月30日
会場|名古屋市立大学 北千種キャンパス
芸術工学棟 音響デザイン室 サウンドデザインラボ
《したたり》と《Resonant Depth》は、私の近年の関心である「自然音の記録と再解釈」、「演奏と機械処理の関係性」、「音響の発生源をめぐる認知の揺らぎ」といったテーマに基づいて制作されたハイブリッド・ピアノ作品である。 《したたり》では、大分県竹田市の岡城跡で採取した水滴の音を出発点とした。朽ちた地面の裂け目から一定の間隔で滴り落ちる湧き水。そのリズムに耳を澄ますうち、反復しながら揺れ動く自然のグルーヴが立ち上がってくるのを感じた。この“環境のビート”に呼応するように、ピアノと電子音響を交差させていく構成が生まれた。トランスデューサーで響板を共鳴させ、ピアノの演奏音はピックアップマイクで収音され、電子音とともにリアルタイムで変調される。録音、記述、即興のモードが重なり合うライブ・エレクトロニクス作品として構成されている。 《Resonant Depth》はその手法をさらに推し進めた作品である。水琴窟の音を録音・解析し、そのスペクトル情報から抽出したリズムや音高をMIDIデータへと変換。無人のディスクラヴィアが自動演奏を行い、加振器によって響板を震わせることで、水滴の音そのものがピアノのボディを通じて再発音される。ここでは「自然音→解析→楽器演奏→再共鳴→電子音響」という多重の変換が起こっており、人為と機械、自然と合成の境界が幾重にも交錯している。 いずれの作品においても、私は自然の中に潜む旋律やリズムを採取し、それを拡張し、変形し、あらたな音響空間として再構成することを試みている。そこでは、楽器が奏でるのではなく、「楽器が聴いている」、あるいは「環境が奏でさせている」とでも言えるような、音響主体の反転が起こっている。 私にとってミクスト音楽とは、人と環境、過去と現在、物質と抽象のあいだをつなぐ、一種の翻訳作業である。