魔法陣 Pentacle ピアノのための (2018)
ペンタクル、マントラ、曼荼羅。文様から生まれる魔法は、洋の東西を問わず人を魅了してきた。西洋魔術にある魔法円には、描いた文様の中と外を遮断し、悪魔から身を守ったり文様の内側に悪魔を拘束する役割があるそうだ。一方、魔法陣 (戦いの陣形を取りつつ悪魔を召喚する 文様) は、漫画家の水木しげるが作品「悪魔くん」で考案したものだそうで、僕が好きな漫画、衛藤ヒロユキの作品「魔法陣グルグル」ではさらに、滑るように踊って文様を描くという発想が加えられている。滑って踊って文様を描く競技といえばフィギュアスケートである。日本の羽生結弦選手が平昌オリンピックで金メダルを獲得したばかりだが、ダンスによって氷に描かれる様々な文様とその運動性は、まさに魔法の様に人を魅了する(奇しくも、羽生氏のプログラムは陰陽師の 安倍晴明であった)。フィギュアスケートの魔法は図形を正確に描くコンパルソリーという地味な訓練によって支えられている。ピアニズムの魔法が楽譜の記号を正確に追うソルフェージュによっ て支えられているように。さて、オルレアン国際ピアノコンクールに参加する友人、安田結衣子選手の依頼で制作したピアノのための作品「魔法陣」は、ピアニストが演奏によって「滑って踊って文様を描くこと」を意図した作曲的アプローチである。音響の内側から音形が立ち上がる入れ子構造と、間断なく回帰を続ける循環形式を意識し、記譜した文様の閉じた系から響きの召喚魔法という開いた系を作ろうと試みた。安田氏がこのペンタクルからどんな悪魔を召喚して聴衆を魅了してくれるか期待している。 (2018年2月17日、パリ)