2019/12/3 現音 Music of Our Time 2019

ペガサス・コンサート Series Vol.I
染田真実子 「たゆたう真珠」

2019/12/3 (火) 18:30開場 19:00開演

(1)金子仁美 : 歯車 ギリシャ民謡によるA (2006)
(2)増本伎共子 : 日々の移ろい (2018)
(3)ジャン=パトリック・ブザングラン : 逃げる影 (2019) 初演
(4)金子仁美 : 歯車 ギリシャ民謡によるB (2006)
(5)ジャイルズ・ファーナビー : ジャイルズ・ファーナビーの夢、おもちゃ
(6)向井響 : 美少女革命:転生 (2019) 初演
(7)ジェルジュ・リゲティ : ハンガリー風パッサカリア (1978)
(8)ジャン=アンリ・ダングルベール : プレリュード ト短調 (1689)
(9)松宮圭太 : ダングルベール讃 (2011/2019)日本初演

(1)-(6)平均律 (7)中全音律 (8)キルンベルガー調律
(9)中全音律・キルンベルガー調律 (6)(9)クラヴサン+エレクトロニクス

染田真実子(クラヴサン)
島村幸宏(エレクトロニクス)


松宮圭太 : ダングルベール讃 – クラヴサンと電子音響のための (2011, 2019)

 2011年にこの作品を制作した際、クラヴサン音楽へのアプローチのヒントとしてまず関心を持ったのが中期バロック音楽においてジャン=アンリ・ダングルベール(1629 – 1691)が行った様々な装飾法の分類であり、その方法に触発されて装飾や音型を整理するところから始めた。そしてこの楽器にはダンパーペダルが存在せず、残響、ダイナミクス等の調整をそれによって行う機能がないという物理的制限が、却って古典作品の装飾法における創意に気づかせてくれることとなった。次に調律法に関心を寄せ、中全音律とキルンベルガー調律を敢えて同時に用いることにより、微分音音程を含む新たな音階および、音色と音の震えの混合体としてのビスビリャンド・トリルを獲得するに至った。ミクスト音楽としての電子音響へのアプローチにおいては、器楽と親しい音楽書法を模索し、双方のインタラクションによって音楽を構築する発想を得て作曲した。
 その後、パリ音楽院楽曲分析クラスで行ったフランスの鍵盤音楽史における鐘の音の表象の研究、振動現象に関心を抱き続ける作曲家ミカエル・レヴィナスの元で助手として数年間実地で携わった様々な作品制作、カサ・デ・ヴェラスケスでのアーティスト・イン・レジデンスにおいて鐘の音響をテーマに制作したギター小協奏曲などの経験を経て、今回、本作品を改作することとなったが、振動現象における音階と音色の狭間の響きへの関心、楽器演奏と電気的な振動装置から発せられる音響の構築、そしてその音楽表現上の融合状態の模索という現在の研究テーマが、本作品を最初に制作した当時の関心の延長上にあることを改めて確認した。
 電子音響に関しては、中期バロック音楽においてクラヴサンの発音機構における制限から発展した装飾法と、初期ゲーム音楽においてPSG音源における同時発音数の制限から発展した波形とパルスによる音楽表現をなぞらえた音楽書法を模索し、ミクスト音楽としては、クラヴサンの二段鍵盤における二種の調律法、装飾法とPSG音源、楽器演奏と電気的振動といった異なるシステムの境界において生じる音色と音の震えの混合体としての音楽表現を試みた。
(文 松宮圭太)

松宮圭太 Keita Matsumiya (1980 -)

 作曲家。愛知県立芸術大学音楽学部作曲専攻(音楽学)卒業。東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻修了。ロームミュージックファンデーション、メイヤー財団の両助成を得て2011年パリ国立高等音楽院作曲科第1高等課程(作曲学士)を首席で修了、2013年同科第2高等課程(作曲修士)、2016年同楽曲分析クラスを修了。2011/12年IRCAM(フランス国立音響音楽研究所)作曲研究課程を経て、アンサンブル・ルガールの創設者・所属作曲家としてパリを中心に音楽活動を行いながら、ミカエル・レヴィナスのアシスタントとして複数のオペラの制作に携わる。2016/17年、フランス政府、国民教育省の派遣によりマドリードのカサ・デ・ヴェラスケスにてレジデント・コンポーザー。愛知県立芸術大学大学院非常勤講師を経て、2018年より大分県立芸術文化短期大学専任講師。
 情報と即興への関心から、作曲制作における音響オブジェ、数理モデル、身体の理の相互協調を模索する。2010年第8回武生作曲賞受賞、2015年第8回デステロス作曲コンクール・ミクスト作品部門佳作(1位空位3位)。フランス学士院および芸術アカデミーの指名により2016/17年第87代在マドリード・フランス・アカデミー芸術会員。クラングシュプーレン音楽祭(シュヴァーツ)から委嘱を受ける他、フランス国立ロレーヌ管弦楽団、アンサンブルTIMF、アンサンブル・ソニド・エクストレモ、カメラータ・ストラヴァガンツァ、ムジカ・ユニヴェルサリ、アンサンブル・ルガール、パリ音楽院卒業生オーケストラなどによって作品が演奏され、ミクスチュール音楽祭(バルセロナ)、アルス・ムジカ音楽祭(ブリュッセル)、サントル・アカント(メッス)、ブルターニュ国際サクソフォンアカデミー、統営国際音楽祭(トンヨン)、武生国際音楽祭、トーキョーワンダーサイトなどで作品が取り上げられる。創作は多岐に渡り「ギター小協奏曲」(ソフィア王妃芸術センター2017)、ハイブリッド・ヴィオラのための「奇想曲」(アルス・ムジカ、ブリュッセル2015)、舞台音楽「阿修羅」(大駱駝艦・壺中天2015)など。